ジョークって聞くと、外人がする小話、ブラックジョーク、セリフが決まっていて、とんちが効いているちょっとした笑い話。
話した後、最後にニコッとして眉上げてドヤ顔して終わり。こんなイメージでは無いでしょうか?
ネットとかにジョーク集とかありますけど、見るだけで、実際に使わないので覚えようとか思わないですよね。
言った時に、(あ!この人ネットのジョーク使ってる)って思われるのも恥ずかしいですし。
しかしですよ。侮ってはいけない。ジョークは何十年もの間、誰が言い出したかもわからないにもかかわらず、口伝えのみで残ってきた著作権フリーの物語です。
実はジョークにも型があります。
この形を知ると面白い話がフリとオチで構成されているとすると、どんな種類のフリとオチがあるのか理解できるんです。
そこをはっきりさせてくれる本がありました。
こちらです。
必笑小咄テクニック
タイトル:必笑小咄テクニック
著者:米原万里
出版社:集英社
読もうと思ったきっかけ
面白いジョークにはワケがある|必笑小咄テクニックを読むとわかる
本でもネットでもジョーク集ってありますよね。独特な言い回しだったり、いいトンチが効いていたりして、「おぉ、上手いこと言う」と一回ぐらいは思ったことありますよね。
ネットだと同じようなジョークばかり乗っていて、どこも同じで変わり映えしないなぁとげんなりすることも多いです。
そんな中、この本はジョーク集ではなく、ジョークを分析して面白いジョークの構造を説明してる!この部分がジョークジャンルの中でも異彩を放っており、ジョークの構造を真似すると面白い話ができるようになるんじゃないか?
そう思って購入しました。
読後の感想
面白いジョークにはワケがある|必笑小咄テクニックを読むとわかる
文庫本ですが、文字は小さめなので事例豊富です。その豊富な事例と解説でジョークとはなんたるかを知ることができる稀有な本です。
やはり、ジャンル分けされているのがいいです。そしてなんといってもジョークの構造が説明されているのがとてもいいです。
ジャンル分けは少し細かすぎて、混乱するところもあるのですが、それでも型が知れるのは非常に大切であり、なるほど!と思います。
著者の米原さんご自身が大のジョークや小咄好きで聞くのも自分で話すのも大好きなのが伝わってきます。
ご自身のエピソードも書かれていて、吹き出してしまう所、多々ありでした。僕はドンガ(イタリアのスキーヤー)との筋肉トレーニングと食事の話で爆笑してしまいました。
第1章から第12章まであるのですが、特に第1章と第2章はジョークの構造を理解する上でとても重要なパートでした。
著者はジョークのパターンの一つとしているのですが、この部分を読むことでジョークの全体的なオチとフリの構造が理解できるようになってます。そして何より大切なのが順番であることもわかりますので非常に重要なパートになります。
第3章から11章までが実際のジョークのパターンについての解説になっていて、第12章はジョークを言うときの気をつけるべき点のような章になっていました。
おすすめのポイント3つ
面白いジョークにはワケがある|必笑小咄テクニックを読むとわかる
この本で印象的だった、知って価値のあるポイントを3つピックアップします。
- ジョークは詐欺師の手口と同じ
- 順序の大切さ
- 事例の多さと丁寧な解説
1 ジョークは詐欺師の手口と同じという考え
詐欺の目的が金品を巻き上げることであるように、ジョークの目的は笑いを取ること。笑わせるためには、オチが思いがけないほど良い。予測される展開と実際の顛末との落差こそがオチなのだ。あらかじめオチがわかってしまったら、落差は生まれないからオチにならない。手口が相手に悟られたら詐欺が失敗するし、 ネタバレのできないが推理小説に最後まで付き合ってくれるお客さんはいない。
2 ジョークの順序の大切さ
ジョークの順序には次の原則がある
1オチが最後に来ることこれは絶対条件。
2落ちを成立させるための前提条件を選定させること。
3オチも前提条件もあたかも必然であるように、要するにとってつけたような感じがしないよう取り繕うべく他の情報の順序に配慮すること。
4最後のオチまで付き合ってもらえるよう、謎と答えを小出しにしていくこと。
5できれば謎解きとミスリードをシンクロさせること。
6そして理想は最大の謎の氷解とオチとを一致させること。
3 事例の多さと丁寧な解説
豊富な事例を元に丁寧な解説がされているので、理解しやすいです。
ネットのジョーク集を見るよりはるかに頭の中にジョークの構造が残ります。
本の概要
面白いジョークにはワケがある|必笑小咄テクニックを読むとわかる
目次に沿ってほんの概要をご説明します。
第1章…詐欺の手口
ジョークや小話は詐欺の手口と似ているという話です。詐欺は最初から人を騙す事なのですがジョークも最後のオチで人を裏切るところが詐欺と似ているという理論でジョークの例を出しながら裏切りの構造について理解が深まります。
第2章…悲劇喜劇も紙一重
ジョークではフリとオチの順番がとても大切だよ、そしてオチの演出の必要性が書いてあります。
本書の言葉を借りると、順序が変わっただけで、悲劇は喜劇に変貌する。これはまた別なことも教えてくれる。オチはゼロから想像すると言うよりも、見出して演出するものなのである。「最初からオチなんてない。オチにしてやるのだ」。
話の構成要素の中から、オチになりそうな部分を見つけ、話の順番を変えて、ちょっと盛ったりするとジョークや小咄が出来上がる。
第3章…動物と子供には勝てない
ジョークでは動物や子供がしばしば登場するが、動物や子供の邪気のない物の見方、子供に対する大人の「何も知らないだろう」という偏見が常識にとらわれた大人の考えを裏切ってくれる。この辺りにフリとオチが効き笑える話となっているものが多い。
第4章…お株を奪って反撃
視点を当事者からいっきょに相手側へ理論を逆転させて笑を取る方法は、優れたジョークの常套テクニックである。これは例が素晴らしいので引用してご紹介します。
女子大生が悩みの相談
女子大生「先生、私、男とデートすると必ずベッドまで行ってしまうんです。断れない性格っていうか。でも後になって、なんてバカで尻軽だったんだって自己嫌悪に苦しめられるんですよね」
先生「それは催眠療法で簡単に治ります。すぐ始めましょう。目が覚めたら、男の誘惑を拒絶できる性格になっていますよ」
女子大生「やだ!先生!拒絶するなんて。それよりも後で自己嫌悪に陥らないようにしてくださいよ!」
先生の理論が想定している対象を、正反対のものにするものに転嫁することで論理をハイジャックする方法である。
最後にそっちかよ!というツッコミが入るような形がこのパターンですね。
第5章… 木を見せてから森を見る見せる
ある理論や物の見方を、突然他の論理を持ち込むことで、相対化させる、その瞬間こそがオチになる。
どアップからの突然頭のアウトすると言う方法があるこのような方法を著者は「木を見せてから森を見せる」と便宜的に読んでいる。
カメラで言えばいきなりズームインからの引き。
幽霊のお化けが出ると知らされていない芸人さんの視点からグッと引いて角に幽霊のお化けが隠れているのがわかる視点に変わって、トリックがわかる瞬間のようなものだと思います。
第6章…神様は3がお好き
異なる理論や視点をで合わせるのに、最も古典的かつポピュラーなのは、3つの立場を述べて見せるやり方である。
色々と3にまつわる説明があるのですが、日本のお笑いで言う「3段オチ」のことかな、と理解しました。
1つ目と2つ目で同じ方向性のことを言って、3つ目に違う方向性のことを言って落とすのような方法です。
文中より引用したほうがわかりやすいですね。
3度未亡人になった女性
3度未亡人になったアメリカ女性が4度目の結婚に踏み切ることになったのだが、親族がうるさくて神経科のカウンセリングを受けることになった。
医師はどのようにして3人の男たちがなくなったのか尋ねたのだった。
女性「最初の夫は毒キノコにあたってなくなりました」
医師「なるほど」
女性「二人目の夫も毒キノコにあたってなくなりました」
医師「ふむ、では3人めの方は?」
女性「強烈な脳震盪起こしまして、、、だってキノコ嫌いで絶対に食べないと言い張るんですもの」
第7章…誇張と矮小化
これは重要なことと些細なことが逆になるといパターンになります。
こちらも事例を引用したほうがわかりやすいと思います。
飛び降り
高層ビルの屋上に登った男が今にも飛び降りそうだと言うので、黒山の人だかりとなっている。
しかし、男はなかなか飛び降りない。
野次馬の一人がぼやいた。
「あー困ったわ、私。早く飛び降りてくれないと、バスに乗り遅れちゃう!」
人間の生死という厳かな一大事が、「バスに乗り遅れる」と言う日常茶飯事に乗り越えられて、一瞬にして矮小化されてしまった。
その瞬間、私も含め野次馬一同は不謹慎ながらどっと笑った。
このように重要なことが些細なことに負けてしまい、逆になると笑いが起きるというパターンです。
第8章…絶体絶命の効用
ジョークの登場人物は崖っぷちに追い詰められたり、乗った飛行機が墜落寸前だったり、病に怯えていたり、死刑寸前だったり、とにかく絶体絶命、切羽詰まった状況に追い込まれていると言う場合が多い。
これは古典的な喜劇映画の名手、チャップリンやキートンも好んで用いたお馴染みの手法。
窮地に陥った人間の必死の姿は笑いを誘う。
わかりやすいため文中のジョークを引用します。
パラシュート
パラシュート一式を購入した男に店員が説明する。
「これを装着して飛行機からジャンプいたしますと、5秒以内に自動的にパラシュートが開く仕掛けになっております」
男が心配そうに尋ねる。
「もし知らなく開かなかった場合は?」
「その場合は胸元を右にあるこの輪っかを引っ張ってください」
「それでも知らな開かなかった 場合は?」
「こちら胸元左にある予備の輪っかを引っ張ってください」
「それでも開かなかった場合は?」
「その場合は不良品と言うことになりますから、いつでもお取り換えいたします。ご面倒ですがこちらまでお待ちください」
死という一大事を最後の一文で思いっきり思いっきり軽視してみせる。
ささいなことを生死より上に置くと言う、この優先順位逆転の方法をとると、実に簡単にジョークができあがる。
第9章…言わぬが花
まずは著者のエピソードトークをご覧ください。
トンバ(イタリアの超有名スキーヤー)の食事は持続力を生むパスタ中心で、イタリア最大のパスタメーカー、バニラのキャラクターもしている。
数年前、日本でジャーナリストを招き、彼の手作りパスタを披露し、インタビューに答えるイベントがあった。
そこで食べたお手製のパスタソースがおいしかったこと!
様々な筋力トレーニングと食事メニューの話をしている時
「ちょっと腕に触ってみてくれ」と言われた。
ジャーナリストの人と一緒に、恐る恐る触ると、鋼鉄のように固い。
「ここも触ってみろ」と太ももを指す。
鍛えあげられた筋肉は、人間のものとは思えない硬さであった。
一同、「さすが、すごい」と感心していると、彼はニヤリと笑っていた。
「もっと硬いとこもあるぞ」
年甲斐もなくうろたえる私に彼はささやいた。
「骨だよ」
下ネタまがいのことを音声かあるいは文字化した途端に、想像力にタカがはめられて、心が落ち着か落ち着いてしまう。それでは骨だよと言われたときの落差が効いてこない。口にしない方が、文字にしないほうがずっといやらしい。
人間は、自分自身の脳みそを動く寝かせて、想像したり刺したりした事柄の方が印象に残るようにできているので、言わずに通じる場合はどんどん省略するのが鉄則。
イメージが裏切られて笑いが起きると言うパターン。
第10章…悪魔は最後に宿る
たった1つの言葉(悪魔)で話の全てをひっくり返す。それが面白い構造になっているといるのだと感じました。
本来全体に奉仕するべき細部を取り出して、その細部に全体を奉仕させてしまうやり方。と著者は綴っています。
第11章…権威は笑いの放牧場
権力、タブー、権威にある生真面目なものを題材にすればするほど、笑いの可能性は高まる。
権力や権威を引き摺り下ろしたりパロディにすると簡単に笑いが取れると言うこと。タブーを口にすることで笑いが取れると言うこと。
第12章…耳を傾けさせてこその小話
ジョークや小咄は、その話を話せるシチュエーションになるまで話せない、あえてこちらから話してしまうならハードルは上がる。
そう、ジョークや小咄にはその難しがありますよね。とっても共感。
まとめ
面白いジョークにはワケがある|必笑小咄テクニックを読むとわかる
このようにジョークにも型があります。
この形を知ると面白い話にどんな種類のフリとオチがあるのか理解できます。そこをはっきりさせてくれる本でした。
では。